ゴイステのなかで好きな曲の一つに、『夜王子と月の姫』がある。「世界の終わり来ても、僕等ははなればなれじゃない」というサビの一節を筆頭に、綺麗な歌詞の静かなバラード曲で、カラオケでもよく歌っていた。
この曲は、ボーカルの峯田和伸さんの作詞作曲で、銀杏BOYZとしても歌われている。歌詞に、「カムパネルラ」という言葉も出てくるように、『夜王子と月の姫』は、宮沢賢治の童話『銀河鉄道の夜』が一つのモチーフになっているみたいだ。
また、歌詞の最後のほうに、「君が星こそかなしけれ」という一節がある。この歌詞も、宮沢賢治の詩『敗れし少年の歌へる』の最後の一節として書かれている。
『敗れし少年の歌へる』
ひかりわななくあけぞらに
清麗サフィアのさまなして
きみにたぐへるかの惑星の
いま融け行くぞかなしけれ雪をかぶれるびやくしんや
百の海岬いま明けて
あをうなばらは万葉の
古きしらべにひかれるを夜はあやしき積雲の
なかより生れてかの星ぞ
さながらきみのことばもて
われをこととひ燃えけるをよきロダイトのさまなして
ひかりわなゝくかのそらに
溶け行くとしてひるがへる
きみが星こそかなしけれ出典 : 宮沢賢治『新修宮沢賢治全集 第六巻(筑摩書房)』
この『敗れし少年の歌へる』は、詩碑が岩手県のまついそ公園に建っている。宮沢賢治が大正14年(1925年)に三陸を旅した際、普代村の堀内港から発動機船に乗船したという説から、平成16年(2004年)に建てられた。乗船する日の明け方に書いた『三四郎 暁窮への嫉妬』が改作された『敗れし少年の歌へる』が、碑文として選ばれたと言う。
詩の最後の一節に、『夜王子と月の姫』と同様、「きみが星こそかなしけれ」とある。宮沢賢治の詩の現代語訳については、調べると色々と出てくるが、『きみが星こそかなしけれ – 風立ちぬ』というサイトが綺麗に訳されていた。このサイトでは、「きみが星こそかなしけれ」は、「君があの星ならばどんなに美しいだろう(そして、消えていく輝きが愛しくてかなしい)」という風に現代語訳されていた。
ゴイステの曲で使われる「きみが星こそかなしけれ」というのも、「もしきみが星だったら、どんなに美しいだろう」という意味で用いているようだ。峯田さん自身が、ライブのなかで、この言葉の意味について次のように語っている。
君が星こそかなしけれ。
その意味とは、
かなしいというのは美しいという意味でした。
何々こそ何々けれ、
もしも何々だったら何々だろうなんて意味でした。
君が星こそかなしけれ。
もしも君が星だったらどんなに美しいだろうか。(峯田和伸)
君が星こそかなしけれ。星というのは決して届かないもの。だから悲しいし、だからいっそう美しい。