本の言葉

福岡伸一の動的平衡とは

福岡伸一の動的平衡とは

分子生物学者の福岡伸一さんが主張する概念に「動的平衡」という考え方があります。一体動的平衡とは、どういった考え方なのでしょうか。この概念について解説する際、福岡伸一さんは食べ物を例に出します。我々人類も含め、生き物が食べ物を体内に取り入れるとき、体が機械で、食べ物が、その機械を動かすためのガソリン、エネルギーである、という仕組みが一般的に思い浮かべるイメージではないでしょうか。しかし、実際は違うと福岡さんは指摘します。1930年代後半にアメリカに亡命したユダヤ人生物学者ルドルフ・シェーンハイマーの研究によれば、ねずみに識別可能な実験用の食物を与えた際、ねずみの体重は変化しなかったものの、確認すると食物のアミノ酸がねずみの体内に散らばっていたといいます。要するに、食べ物がエネルギー源として取り込まれ、排出されるのではなく、食べ物そのものが体になっていた、ということです。一方で、体重は変化していないということは、もともとあった組織が分解され、食事で摂取したものと置き換わっている、ということになります。ねずみは、半年で体のタンパク質の半分ほどが入れ替わっていました。人間の体も、一年も経てば、脳も心臓も骨も、分子レベルでは新たに置き換わっているといいます。しかし、もちろん「私」はそのまま保たれています。すっかり「私」を構成するものは入れ替わっているのに、「私」は私のまま。この動的な流れのなかで平衡状態を保っていることを、「動的平衡」と呼び、生命とは動的平衡にある流れである、という風に福岡さんは生命を定義付けします。「私たち生命体は、たまたまそこに密度が高まっている分子のゆるい〈淀み〉でしかありません。これを動的平衡と言い、この流れ自体が〈生きている〉ということ(福岡伸一)」。これは、鴨長明が綴った『方丈記』に出てくる無常感の考え方とも符合します。川の流れは絶えることなく日々移り変わりながら、同時に「川」はいつまでも保たれている。動的平衡は、古くからの日本人の考え方とも、よく馴染む考え方なのです。