自然

養老孟司『かけがえのないもの』

養老孟司『かけがえのないもの』

本の紹介

養老孟司さんは、日本の解剖学者で、東京大学の名誉教授、2003年に出版された『バカの壁』は400万部以上で、戦後日本の歴代ベストセラー4位に。以降も死生観や自然観を軸に、様々な視点の本を発表しています。養老孟司さんは、1937年に生まれ、4歳のときに父親が病気で亡くなります(参照 : あいさつが苦手だった。それが父親の死と関係があるとわかった瞬間、涙が溢れてきた – 「賢人論。」第76回養老孟司氏)。養老さんにとって、父の死と、敗戦で全てが一気に変わり、教員が以前と真逆のことを教えるようになったことは、傷に近い、生涯に渡る大きな影響を残すことになります。また、昆虫採集が趣味で、ジブリの宮崎駿監督との対談本『虫眼とアニ眼』のように、虫という名前の入った本も多数出版しています。

養老孟司さんの著書のうち、この記事で名言を紹介したいのが、『かけがえのないもの』という本です。かけがえのないものとは、ほんとうの自然のこと。「自然」という言葉は大変捉えがたいですが(その混乱の理由として、もともとの日本人の感覚にあった自然じねんという言葉を、明治期に入ってきた外来語で客観対象物として捉えるnatureの翻訳に当てはめたことが挙げられます)、養老孟司さんの考える、自然と人間との距離感が『かけがえのないもの』には綴られています。たとえば、養老さんは、「手入れ」の感覚が大事だと言います。自然を支配し、コントロールするのではなく、一切放置するのでもなく、そっと手入れをする。植木屋さんが、切っては眺め、眺めては切り、それがただやみくもに切っているわけでもなければ、はっきり目的があって切るのでもないのに、自然とできている。これが、日本文化の自然との向き合い方の基本的な姿勢だと言います。『かけがえのないもの』は、こうした手入れの思想も含め、養老さんの自然観がとてもよく纏まった読みやすい一冊です。

本の名言

何かきちんと手入れをしていると、いつの間にかできてくるものがある。それが手入れの感覚です(参照 : 手入れの思想)。

都市には自然がない。見渡して人間がつくっていないのは、観葉植物くらいでしょう。でも私はこういうものは「自然」とは言わない。人間が人工的につくったものを、かけがえのないものと私は呼びません。自然というのは人々がつくりえないもののことです。