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坂口恭平『生きのびるための事務』感想

芸術家の坂口恭平さんの『生きのびるための事務』という本を読んだ。坂口さんは風景画が美しく、絵を描くだけでなく、音楽や、治療家のようなことも行う、広い意味での表現者、シャーマンのような存在にも思える(今は湯治に注目し、温泉宿を作ろうとしている)。

坂口恭平 パステル画(熊本市現代美術館)

もう20年近く前、一番最初に書いた『0円ハウス』が、僕が坂口恭平さんの本を読んだ最初の1冊目だった。これは、ちょうどその頃、まだ(坂口さん曰く)“無名のビックマウス”だった若い頃の坂口恭平さんが、芸術家として、また作家として、現在活動し続けることができるようになるために重要なことが「事務」だった、ということ、そして、その「事務」とはどういったものか、ということが、ジムというイマジナリーフレンドとの会話という形で、実体験を踏まえて漫画によって描かれている。ちなみに、漫画の絵は、道草晴子さんという漫画家で、彼女は、以前、坂口さんが、「死にたいと思ったときにいつでもかけてきて」と言って無料で行っている活動「いのっちの電話」にかけてきた人だと言う。

話を事務に戻すと、過去の有名な芸術家たちも、実はその芸術活動を支える上で土台となっていたものが「事務」だったと言う。ここで言う「事務」とは、主に、お金の管理と、スケジュール管理のことで、ただ、それほどきっちりと管理の方法が説明されているというわけでもなく、もうちょっと気軽に、幅広く事務が捉えられているように思う。そして、自己否定に関しても、躁鬱で苦しんでいる坂口さんらしく、自己否定するのではなく、この「事務」を評価する、という部分に触れている。自己否定も、あるいは、自己肯定感というものも、本当はおかしな方法で、自分自身への否定や肯定ではなく、「やり方」に目を向けるべきで、「否定すべきは己ではなく、己が選んだ方法のみである」と(イマジナリーフレンドの)ジムは言う。

実体験に基づいているので、読み終わったあとに、坂口さんだからできたことだ、という感覚になるかもしれないが、その部分は置いておいて、この「事務」という発想を取り入れる、という点が重要で、いわゆるハウツー本や自己啓発本という雰囲気でもなく、思考の柔軟体操に向いている。この『生きのびるための事務』は、文章だけで読むよりも、漫画という形が合っていると思う。漫画ゆえに、だいぶ読みやすくなっている。何かを始める人、停滞している人、学生など、さまざまな人にとって、受け入れやすい本なのではないかと思う。