不登校で悩んでいる子供だけでなく、その親に向けてもおすすめの映画として山田洋次監督の『十五才 学校Ⅳ』という作品がある。
主人公の川島大介は、横浜に住む不登校の中学生で、学校に行く前になると腹痛がし、昼頃には落ち着く、といった状態が続いていた。医者やカウンセラーに診てもらっても、原因は分からなかった。あるとき、大介は、両親に内緒で家出をし、屋久島に向かって一人旅に出た。目的地は、屋久島の縄文杉だった。
映画の公開は2000年と、結構昔の作品なので、一見すると古いようにも見えるが、主題歌や挿入歌は、デビューして間もない、若い頃のゆずが担当している。
作中、旅の途上で大介が、長年部屋に閉じこもっている一人の田舎の青年と出会うシーンがある。青年は、普段ほとんど喋ることがなかったものの、大介には心を開き、昔好きだった女の子のことなど、色々と話した。
そして、青年は大介との別れ際、プレゼントとしてパズルを贈った。パズルの裏には、一編の詩が書いてあった。それは、そのひきこもりの青年が書いた『浪人の詩』という詩だった。
浪人の詩
草原のど真ん中の一本道を
あてもなく浪人が歩いている
ほとんどの奴が馬に乗っても
浪人は歩いて草原を突っ切る
早く着くことなんか
目的じゃないんだ
雲より遅くてじゅうぶんさ
この星が浪人にくれるものを
見落としたくないんだ
葉っぱに残る朝露
流れる雲
小鳥の小さなつぶやきを
聞きのがしたくない
だから浪人は立ち止まる
そしてまた歩きはじめる
物静かで、どんなことを考えているのか言葉で表現することのできなかった青年が、密かに詩に綴っていた想い。それは、この星が浪人にくれるものを見落とさずに生きたい、という願いであり、意志だった。
青年の母親が、助手席に大介を乗せて走っている車中、大介がこの詩を朗読すると、母親が「あん子、そんげなこつ考えちょったと、おばさんちっとも気づかんかった」と涙をこぼす。
そのひきこもりの青年だけでなく、家族にとってもどうしていいか分からなかった日々のなか、不登校で悩み、一人旅をする大介が、彼らのこわばった心をほんの少し和らげた。