監視社会を描いた映画『Vフォー・ヴェンデッタ』は、2006年に公開された、アメリカ、ドイツ、イギリスの合作映画で、監督は『マトリックス』の助監督を務めたジェームズ・マクティーグ。この映画が、マクティーグの監督デビュー作となる。
主演のイヴィー役は、女優のナタリー・ポートマン、もう一人の主人公と言える仮面姿のダークヒーローVを演じている俳優は、(ほとんど顔は出ないものの)ヒューゴ・ウィーヴィングが務める。
『Vフォー・ヴェンデッタ』予告編
映画の舞台は、当時から見れば近未来の2020年、イギリス。第三次世界大戦を経て、アメリカは植民地になり、イギリスは独裁者アダム・サトラーのもと、全体主義国家となっている。
主人公のイヴィーは、英国放送に勤め、ガイ・フォークスの仮面をかぶったVと出会う。Vは、この独裁国家に対し、革命的な復讐を目論んでいた。
作品を通して漂う、陰鬱な空気感と、カタルシスが描かれる。
ラストシーンでは、クラシック曲が鳴り響きながら、次々と建物が爆発し、仮面をかぶった国民たちが、次々と仮面を取り、その爆発とともに打ち上がる花火を眺める。高揚感とともに美しさもあった。
この『Vフォー・ヴェンデッタ』というタイトルは、英語では『V for Vendetta』と書き、「Vは、復讐のV」という意味合いになる。
だから、このVという名前も、「復讐」に由来するように思える。一方で、収容所に入れられていたVは、「V」と扉に刻まれた第5監房に入っていたことが分かるシーンも描かれ、5を表すVに由来するとも言える。
また、過去に同性愛が理由で逮捕され、処刑されたとするヴァレリーという女優の存在も描かれ、このValerieのV、あるいは、復讐の決行日である11月5日の5も関連しているかもしれない。
その他、様々なVが劇中に登場し、映画のラストでは、花火で「V」という字も描かれている。
この映画では、全体主義国家となったイギリス政府に復讐するダークヒーローのVが、重要な登場人物として描かれ、劇中、このVが語る様々な名言も散りばめられている。
殊勝な振る舞いで己の悪魔を覆い隠すは人の常。
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警棒で言葉を抑圧することも可能だ。だが言葉には力がある。“意義”もある。真実を明らかにすることもできる。
真実とはこの国に大きな間違いがあることだ。
暴虐、不正、弾圧、それがこの国だ。
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誰がこうしたのか、程度の差こそあれ、責任は多くの者にある。
真の責任者を知りたければ、鏡を見るだけでいい。
気持ちは分かる。
恐れたからだ。テロ、疫病、恐れて当然だ。
多くの出来事が、判断力と良識を奪い去ったのだ。
恐怖とパニックの中で、議長サトラーに希望を託した。
彼は秩序と平和を約束し、代わりに沈黙と同意を求めた。
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結局、この計画の最大の武器は「恐怖」だった。
恐怖が利用され、国家に新しい役職ができ、終身議長としてサトラーが就任した。
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仮面の下にあるのは、理念だからだ。理念は決して死なない。
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人民が政府を恐れるのではない、政府が人民を恐れるのだ。
真の責任者を知りたければ、鏡を見るだけでいい、という表現も重たく、また、恐怖が利用され、独裁的な世界が生まれる、という流れも、極めて現代的なテーマだと思う。