片思い・失恋の切実な心情を描いた漫画ハチクロの名言
登場人物たちがそれぞれ片思いを抱え、失恋の悲しみを乗り越えようとする、羽海野チカさんの漫画『ハチミツとクローバー』。
美術大学を舞台に、若者たちの恋や成長が描かれ、ストーリーの切なさや絵柄の可愛さ以外に、さまざまな名言が出てくることでも魅力のこの作品。
大学生の頃に読んだのですが、誰もが共感できる面を持っているような登場人物たちばかりで、台詞の描写も美しく、ぐっと引き込まれた漫画です。
片思いと両思い 山田さん
たとえば、片思いと両思いのほんとうにわずかな、でも根本的な違いについて触れた、登場人物の山田あゆみのこんな言葉が出てきます。
自分の一番好きな人が
自分の事を一番好きになってくれるたったそれっぽっちの条件なのに
どうしてなの
永遠に揃わない気がする出典 : 羽海野チカ『ハチミツとクローバー』
片思いの本質は、この言葉に凝縮されているのかもしれません。
一番好きな人が、自分を一番好きになってくれる。ただそれだけのことが叶わない。言葉にすれば驚くほど単純で、小さなパズルのピースがあと一つはまれば完成するような、ささやかな条件に見えます。
けれどその最後の一片が、どうしても揃わない。手を伸ばせば届きそうなのに、永遠に届かない気がする。
山田さんは、真山さんに恋をしています。しかし真山さんには、大切に思うリカさんという年上の女性がいます。そして、山田さんはその事実を知っている。相手が誰を見ているのかを理解しながら、それでも好きという気持ちは簡単に消えてはくれません。
知らなければまだ夢を見ていられるかもしれない。でも知っているからこそ、現実の重さが胸にのしかかってくる。その現実を乗り越えていかなければいけません。
失恋を乗り越える 山田さん
ハチクロでは、その片思いや失恋の現実と向き合おうとする、こんな山田さんの台詞もあります。
しっかり食べて
ちゃんと寝て
キチンと起きて
せいいっぱい仕事してあなたがほかの人をどれだけ大事にしていても
それを見せつけられても
ポキリと折れずに生きていけるように
私の心がぐしゃっと潰れないように出典 : 羽海野チカ『ハチミツとクローバー』
これは単なる恋の言葉ではなく、片思いや失恋を生き延びるための宣言でもあります。
たとえば片思いの相手が同級生の仲間の一人だったり同じ職場だったりと近くにいる人なら、その好きな人が他の誰かを大切に思っている姿がいやでも目に入るかもしれません。SNSでいつも視界に入ってしまう、という場合もあるでしょう。そのたびに心は揺さぶられます。
だからこそ、日常をきちんと積み重ねる。ちゃんと食べて、ちゃんと眠る。そうやって自分を保たなければ、心は簡単に折れてしまうからです。
好きで好きでたまらない。本気で恋をし、叶わない恋に苦しむ。でも、一気に崩れていかないように、必死に自分を守ろうとする。そんな山田さんの健気さが、胸を打ちます。
片思いとは、報われない恋というより、「揃わない条件」を抱えたまま、それでも誰かを好きでいる時間、なのかもしれません。心をこめる、ということは簡単にできることではありません。それは大人になればなるほど実感させられます。
両思いの温かさとは違いますが、そこには確かに、誰かを真剣に思った証のような輝きがあります。
片思いの意味 竹本くん
ハチクロの主人公である竹本くんもまた、ずっとはぐちゃんという女の子に恋をしていましたが、その恋も叶いませんでした。
はぐちゃんは、親戚であり父親的な存在でもあった花本先生を選びます。
物語の最後、新たな地へと出発する竹本くん。大学卒業後に盛岡へ就職するために旅立ちます。出発の日、新幹線に乗ろうとする彼の前に、はぐちゃんが現れ、手作りのサンドイッチを渡します。
車内でそれを開くと、はちみつのなかに四つ葉のクローバーが何枚も挟まれていました。その光景に触れたとき、竹本くんは、最後まで届かなかった恋にも確かな意味があったのだ、と思います。
オレはずっと考えてたんだ
うまく行かなかった恋に 意味はあるのかって
消えて行ってしまうものは
無かったものと同じなのかって…今ならわかる 意味はある
あったんだよ ここに出典 : 羽海野チカ『ハチミツとクローバー』
片思いが、人生における〈無駄な時間〉などではなく、その一つ一つに確かな意味があるのだということ、意味を見出していくのだ、ということを教えてくれるハチクロの名言たちです。
