きのこ帝国「金木犀の夜」 意味と歌詞考察
きのこ帝国が2018年にリリースしたアルバム『タイム・ラプス』に収録されている「金木犀の夜」。
都会的な孤独感と、ノスタルジックな雰囲気が重なり合うような、秋の夜に馴染む楽曲で、寂しい夜に聴きたくなる一曲です。
長く付き合っていた恋人と別れたあと、まだ彼への未練を抱えながら、過去の記憶を感傷的な秋の夜にふと思い出す、という切ない情景を描いた失恋ソング。
そんな「金木犀の夜」について、歌詞の考察や解釈を交えて紹介したいと思います。
金木犀の香り
曲の冒頭、「金木犀の香り」の描写に、ぐっと惹きつけられます。
だいたい夜はちょっと感傷的になって
金木犀の香りを辿るきのこ帝国「金木犀の夜」
秋の夜、涼やかな風が沁みると、無性に感傷的になります。そんなときにふと漂ってくる金木犀の甘い香り。その匂いが妙に切なく、そちらへと引き寄せられてしまいます。
これは実際の金木犀の香りということだけでなく、むしろ、どこからか漂ってくる「甘い過去の記憶」を意味しているように思います。
感傷的——つまり悲しくセンチメンタルな心境の夜は、甘い香りに誘われるように、懐かしい記憶の世界に入り込み、寂しさと未練から、別れた恋人の声が聴きたくなって、彼の電話番号を思い出そうとする。
そんな夜の一幕なのかもしれません。
遠くまで来てしまった
まだ彼に対する未練はあり、好きという気持ちは残ったまま。でも、複雑な気持ちが胸の奥に疼きます。
かける
かけない
会いたい
会いたくない
いつの間にか随分遠くまで来てしまったなぁきのこ帝国「金木犀の夜」
電話をかけようか、かけないでおこうか。会いたい、会いたくない——この葛藤の描写が切なく響きます。
そんな風に「悩んでしまうこと」自体が、「随分遠くまで来てしまった」という気持ちに繋がっているのでしょう。
あの頃は、声が聴きたくなったら電話をするのは自然なこと。いちいち悩む必要もなかった。でも、今は、それすらもできないような関係性になってしまった。
それくらい、遠くへ来てしまった、そういった切なさが痛いほど伝わってくる描写です。
記憶を呼び起こすスイッチで溢れる
歌詞のなかでは、過去の二人の何気ない日常の光景が垣間見えるシーンも描かれます。
普段はもう彼のことなどどうでもいいふりをして何事もないかのように生活している。でも、コンビニに立ち寄った際、彼が好きだったアイスを見つけてしまっては、またあの頃に引き戻されてしまう。
どうでもいいふりしても
君が好きなアイス見つけて
深夜のコンビニで急に引き戻されるきのこ帝国「金木犀の夜」
帰り道などによく買って、一緒に食べていたのでしょう。
別れたあと、引きずっているときには日常のあちこちに悲しみのスイッチがあって、その都度胸が苦しくなります。
街のなかには、彼のことを思い出すための記憶のスイッチが様々なところに張り巡らされているのでしょう。
もしかしたら、「いい香りだね」「秋だね」と、二人で金木犀の話をしたこともあったのかもしれません。
いつか、そんな思い出を笑って話せる日が来るのだろうか——という問いかけが胸に響きます。その都度思い出の世界に引き戻されて苦しく切なくなるのではなく、あのときのことを笑って話せる日が来るのかな、と。
それでも、今はまだ、それはとても難しく、金木犀の甘い香りを辿ってしまう。
金木犀の花言葉には、「初恋」という意味もあります。この恋が、彼女にとって「初めての本気の恋」だったのかもしれません。
だからこそ余計に、強く強く、何度もあの甘美な世界に引き戻されて苦しくなるのでしょう。
