ずいぶんと前に一度挫折した、ワンピースを今さらながら読み進めている。50巻を越えた。
ようやく音楽が得意なブルックが仲間になった。昔、ワンピースを途中で挫折し、しばらく経って、今のワンピースはどうなっているんだろうと、ちらっと絵を見たら、知らない骸骨が仲間にいたので、一体あの骸骨は何者なんだろうと不思議に思っていたが、ようやく謎が解けた。
ブルックを仲間にしたあと、麦わらの一味は、海底の魚人島を訪れるために、船に特殊なコーティングを施す必要があり、そのコーティング職人がいるシャボンディ諸島に向かう。
このシャボンディ諸島のコーティング職人として出会ったのがレイリーで、ルフィたちが、このレイリーと会話をしている場面で出てくる言葉がよかった。
ワンピースの52巻。レイリーは、伝説的な海賊王であるロジャー海賊団の元副船長で、このレイリーに対し、ウソップが、「ひとつなぎの大秘宝、ワンピースっていうのは本当に最後の島に……」と冒険の根幹について尋ねようとした際、ルフィが、ウソップの名前を大声で叫んで静止し、次のように語る。
宝がどこにあるかなんて聞きたくねェ!!!
宝があるかないかだって聞きたくねェ!!!何もわかんねェけど
みんなそうやって命がけで海へ出てんだよっ!!!ここでおっさんから何か教えてもらうなら
俺は海賊やめるつまらねェ冒険なら
おれはしねェ!!!尾田栄一郎『ワンピース』〈52〉
このルフィの言葉がとても響いた。効率的にゴールを目指すことが一番、結果が全てみたいな世の中で、そうじゃない、その途中を歩んでいくことそのものが命なんだ、と言っているように思えた。
伝説の宝が存在し、その宝のありかがどこにあるかの詳細まで全部いっぺんに分かってしまったら、それは一番簡単で“コスパ”がいいのかもしれない。でも、そんな人生は、本当に虚しいものになる。
たとえ手に入っても虚しいし、手に入らないと分かっても、その瞬間全てが意味がなく、虚しく思えてくる。それも、無常観などというものでもなく、きっとよくない虚しさになる。
そうではなく、歩んでいくことそのものに価値があるんだと、それこそが世界で、命で、冒険なんだというのが、このルフィの言葉からは伝わってくる。
宝がどこにあるかも、あるかないかも聞きたくない、つまらねェ冒険ならおれはしねェ、というのは、ルフィの一番の人生観ではないかと思う。
色々なことを無邪気に楽しみ、ときに危険を顧みずに飛び込んでいく。宴が大好きで、仲間のために本気で怒る。僕には足りないもの、届かないものでもあるから、余計に惹かれる。物語の複雑さや登場人物の多さは、徐々にいっぱいいっぱいになっているものの、やっぱりワンピースはエピソードや台詞に響くものがたくさんある。
それから、このシーンの直後の言葉もよかった。
レイリーに、「偉大なる航路はまだまだ君らの想像を遥かに凌ぐぞ、敵も強い。君にこの強固な海を支配できるか」と問われ、ルフィが言った言葉。
「支配なんかしねぇよ。この海で一番自由な奴が海賊王だ」
ルフィが、こう言ったときの表情は、清々しく、活き活きとした眼差しで、にっこりと笑っていた。