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『君たちはどう生きるか』はDVD待ち

持病の関係もあり、今は映画館に行くことがなかなか難しいので、ジブリの宮崎駿監督の新作『君たちはどう生きるか』は観ない。と言うよりも、残念ながら、ちょっと観ることができないだろうと思う。

この映画は、宮崎監督が、『風立ちぬ』以降の引退宣言を撤回し、満を持して制作が完成したアニメーション映画で、しかも、今回特筆すべきは、プロデューサーの鈴木敏夫さんの発案で、映画の公開前から、作品に関するほとんど一切の情報を出さない、「宣伝なし」「予告編なし」という手法が取られたことだ。

広告が過剰となり、映画を観に行く前から、色々な情報を知ってしまっている昨今、タイトルと一枚のポスターのみ、まっさらな状態で映画と向き合って楽しんでほしい、という想いもあったようだ。

宮崎駿『君たちはどう生きるか』

よほど作品の内容や質自体にも自信があるのだろう。宮崎駿監督自身は、宣伝なしで本当に大丈夫かな、と心配の声も漏らしていたようだが、鈴木さんは、この方法に賭け、そして、その賭けには勝っている。ニュースもあまり詳しくは見ていないが、映画の観客動員数が、序盤から相当なものになっているそうだ。

もちろん、宮崎作品は好きだし、一刻も早く映画館で観たいと思う。でも、それができない以上、僕は、DVDが発売されるまでの我慢だと、現在“『君たちはどう生きるか』断食”に取り組んでいる。

なるべく、みんなが観たときに感じたように、僕もまっさらな状態でどんな風に感じるか体験してみたいと思っている。それまでは、作品の内容に関するネタバレ記事を見ないのはもちろん、さらっとした誰かのSNSの感想の言葉や深夜ラジオのパーソナリティが語る鑑賞のエピソードトークも遮断している。

ちょうどこのあいだも、ラジオでオードリーの若林さんが、『君たちはどう生きるか』というフレーズを出した。油断していた。慌てて停止ボタンを押そうとしたが、焦って手がまごつき、ひとまず音声をオフにし、事なきを得た。

ちゃんと聞いてはいないが、『君たちはどう生きるか』を観に行った話をしようとしている予兆を感じ取り、咄嗟に回避した。

霜降り明星のせいやさんも、YouTubeで真正面からネタバレありの感想を語っていた(普段は観ているが、これは絶対に観なかった)ようで、サムネイルからも、真っ直ぐ「語るぞ」という姿勢が伝わってきた。今後ラジオを聴いているときにも、関連するネタをふいに放り込んでくるかもしれない。注意が必要だ。

なにより怖いのはTwitterで、もうすでにいくつか、優秀なコピーライターのように、内容には触れずに観たい気持ちだけは絶妙に刺激するような文章もちらほらと見てしまっている。

急いで忘れる呪文のように意味のない言葉を唱えたりした。勉強のときには、「覚えている」というのも難しいが、こういうとき、「忘れる」というのもまた難しいのだと知る。それに思わず目に飛び込んできてしまったものは、もはや避けようがない(このタイトルのキーワードを、ミュートしておけば多少は予防になるのかもしれない)。

この辺りも、上映から時間が経つにつれて心の縛りが緩み、自然と中身も含めて触れるようなツイートが増えてくるだろう。しかも、SNSにせよ、YouTubeにせよ、一つ二つでも見てしまうと、次々おすすめに表示される危険性も出てくる。

また、意外な落とし穴が、スタジオジブリの公式アカウントだ。上映前までは宣伝も控えられていたが、上映が始まった途端、結構作品関連の発信を強めている。

内部の人も、正直、宣伝なしの状態で、「言いたくて言いたくてたまらない」とだいぶ我慢していたのではないだろうか。映画のパンフレットも発売されれば、さらに拍車がかかるだろう。

この超情報化社会で、内容のネタバレだけでなく、関連情報や感想も含めて少しも触れずに進むというのは、ほとんど不可能に近いと思う。実際、すでに知ってしまっていることもあり、その時点で、みんなが観たときと同じ条件とは言えない。たとえば、ポスターに描かれている唯一のヒントだった、鷹のような白い鳥、あの鳥の鳴き声が、おそらく、カヘ、カヘ、カヘへなのだろう、ということは、ジブリの公式アカウントの発信からも予想される。

僕は、あのカヘカヘと鳴く白い鳥は、神さまみたいな存在で、ストーリーは別の場所で進みながら、ときどき、あの鳥が森の奥のほうでカヘカヘと鳴く(夜空には満月が浮かんでいる)のではないか、などと勝手に想像している。

それから、主題歌が、米津玄師さんの『地球儀』である、ということも知ってしまっている。

もともと主題歌は米津さんではないか、と確か噂にはなっていた。この曲自体は、イントロを少しかすめたくらいで、今もほぼ聴いていない。流れてまもなく、即座に閉ざした。サントラに関しては、ジブリ作品と言えば、ということで、久石譲さんが担当していること、また、YouTubeでチラッと米津さんと菅田将暉さんの対談を見て、菅田将暉さんがキャスティングされていることも知った。ただ、その動画は、これは見たらやばいのではないか、とセンサーが働き、序盤ですぐに閉じた。

また、原作は、吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』ではなく(一切関係ないようだ)、ジョン・コナリーの『失われたものたちの本』ではないかという噂を聞き、この本も読みたかったが、しばらくは我慢しようと思っている。

吉野さんのほうは昔読んだことがあったが、確かに、あれをジブリでアニメ映画化というのはちょっと想像がつかない。

あと、Twitterで誰かが、宮崎駿の原液のような作品だ、という話もしていたから、よほど監督自身の想いが濃厚に詰まっているのだろう。果たして、この“『君たちはどう生きるか』断食”がどこまで持つのか、正直だいぶ危うい。

ここまでストイックに避けなくても、ぼちぼち感想なども見ながら、内容の決定的なネタバレだけは避ければいいのではないか、という誘惑にも駆られている。

だいたい全く避けることはすでに不可能であり、中途半端な先入観を持つよりは、ある程度しっかりと前知識も踏まえた上で観る、というのもありではないか。

そもそもジブリは、ネタバレしたからと言って魅力が落ちるような作品でもないと思う。実際、周りでもすでに3回観に行ったという人がいる。つまり、内容を知った上で観ても充分鑑賞に耐え得るということだろう。とは言え、もともとの狙いとしてまっさらの状態で観てほしいという思いもあった以上は、まっさらな状態で観ることの意義も大きいのだろう。

ジブリ作品はアマゾンプライムやNetflixなどでの配信もないし、あくまでDVDの発売まで待つ必要がある。少なくとも公開から一年くらいはかかるのだろう。一年のあいだ、避け続けることができるのだろうか。葛藤は続く。

諦めるときは素直に諦めようと思っているが、ひとまず、これくらいは自分に許そう、ということで、ジブリに関連する本として、最近は鈴木敏夫さん編集でジブリの歴史が綴られている『スタジオジブリ物語』を少しずつ読んでいる。

ジブリは、この「ジブリに関する本」も、鈴木さんの語り方も絶妙だったり(この本は語り手が鈴木さんではないが)、宮崎高畑両監督を筆頭に、出てくる人物たちのパーソナリティの魅力もあり、面白い本ばかりだ。また、YouTubeで、公開前に鈴木さんが語っている対談動画などでも空腹を満たしている。

引退しておきながら、また作りたいと言い出す宮崎駿監督が、「みっともないことはわかってる」と言いながら、それでも作りたいと鈴木さんを説得する場面の回想が語られる。

鈴木さんは、自身の青春を捧げ、老後はようやく自分のものになると楽しみにしていたら、老後も捧げることになるから、どうしても作りたくないと思って、序盤の絵コンテを読んだ段階で、内心は面白かったものの、「面白くない、やめましょう」と告げようとし、一人で何度も練習した。

しかし、いざ、宮崎監督にその旨を告げにアトリエを訪れた瞬間、「コーヒー飲む?」と先手を打たれ、心を動かされてしまった、という駆け引きの話が面白かった。さらに、宮崎監督は、もうすでに「次回作」も作りたがっているらしく、まだまだエネルギーは尽きないようだ。