このサイトでは、アフィリエイト広告を利用しています。また、感想に関しては、一部ネタバレを含んでいる場合があります。

モグラやツバメがかわいそうな『親指姫』

最近、少しずつ童話を読もうかなと思っていたこともあり、先日、アンデルセンの『親指姫おやゆびひめ』を初めて読んだ。

子供の頃に、絵本で読んだことがあったかもしれないが、『親指姫』の原作自体は初めて読むと思う。作者のアンデルセンは、1805年生まれのデンマークの童話作家で、代表作に『人魚姫』や、『みにくいアヒルの子』などがある。

この『親指姫』は、1835年頃に発表されたようだ。あらすじは、以下の通りになっている。

昔、小さくて可愛い子供がほしくてたまらないという女がいた。その女の人は、魔法使いのおばあさんにお願いすると、魔法使いは不思議な鉢をくれ、その鉢からは、チューリップの花が咲いた。女の人が、チューリップにキスをしたら、花が開き、そのなかに小さな女の子がいた。その子は、親指ほどの大きさだったことから、親指姫と名付けられた。

女の人と暮らしていた親指姫だったものの、あるとき、醜いヒキガエルが、割れた窓ガラスから侵入し、我が子の嫁にしたいと親指姫をさらって、川面の睡蓮の葉っぱに閉じ込めた。しかし、親指姫の美しさに心打たれた小魚たちが救出してくれた。

葉っぱに乗ったまま、川下りをしていたら、今度は、コガネムシにつかまれ、木の上まで連れてこられた。ところが、コガネムシたちは、親指姫のことを、みっともない、醜いと思うようになり、ヒナギクの上に置き去りにしてしまった。夏のあいだ、親指姫は一人大きな森のなかで暮らした。花の蜜を集めては食べ、葉っぱの露を飲みながら、夏と秋を過ごし、寒い冬がやってきた。

冬の寒さにガタガタと震えていた親指姫は、森のはずれの大きな麦畑を、体を震わせながら歩いていた。すると、野ネズミの家があり、野ネズミが温かく暮らしていた。親指姫は、物乞いのように家の戸口に立ち、恵みを求めた。お人好しのおばあさんの野ネズミが、「冬中ずっと家にいていいよ」と招き入れ、親指姫は気持ちよく暮らした。

しかし、あるとき、野ネズミのおばあさんが、お隣のお金持ちのモグラが家に来るという話をした。そして、モグラのお嫁さんになったらどうかと親指姫に勧めた。お金持ちで物知りのモグラだったが、お日様や美しい花は嫌いで、そういうものを一度も見たことがなかったから激しくこき下ろした。

それから、こんなことがあった。

モグラが歩いてきたトンネルの途中で、ツバメが凍え死んでいるように横たわっていた。親指姫は、小鳥たちが夏のあいだ歌ってくれたことを思ったものの、モグラは、そのツバメを蹴飛ばして酷いことを言った。夜になって、親指姫がそのツバメのもとに行き、ツバメの胸の上に頭を乗せたとき、小鳥が生きていることがわかった。一生懸命看病し、ツバメが元気になった。

冬が過ぎるまで親指姫がこっそり世話をし、親指姫もツバメのことが大好きになった。やがて春が来て、ツバメが、飛んで行こうとした際に、親指姫に、一緒に行こうと誘ったが、親指姫は、野ネズミのおばあさんが悲しむと思って、その誘いを断った。

ツバメは、お別れだね、と言って、暖かい日の光のなかに飛び出して行った。その後、ついにモグラが、親指姫をお嫁さんにほしいと言った。モグラのことが本当に好きになれなかった親指姫は、ときどき見える青い空を見ながら、懐かしいツバメにもう一度会いたくなった。でも、ツバメは帰ってはこなかった。

いよいよ結婚式というとき、こうしてモグラと結婚して地面の深くに住んで、モグラは日の光が嫌いだから、この暖かい光も遠のくのだ、と思うと、親指姫は悲しくて仕方がなかった。

そのとき、あの小さなツバメが現れ、また寒い冬が来るから、遠くの暖かい土地に行くところなんだ、と言って、もう一度一緒に行こうと親指姫を誘った。暗い場所ではなく、日の光があり、暖かく、色々な美しい花が咲いている場所。親指姫は、一緒に行きたい、と言って、ツバメの背中に乗り、一気に遠くの土地に飛んでいった。

その土地では、花の天使で、親指姫と同じくらいの背丈の小さい花の王子と出会った。王子は、親指姫に求婚し、親指姫も、その誘いを受け、親指姫は、幸せになる。

自分が子供だったら、誰に共感するだろうか、と思いながら、『親指姫』を読んでいった。

少なくとも、自分がまだ幼い女の子だったら、やっぱり親指姫の気持ちになるのかもしれない。自分は可愛くて、美しく、でも運命に翻弄され、最初は居たくもない場所に連れてこられたり、結婚したくもない人とさせられそうになり、なんてかわいそうなんだ、と思う。

ただ、僕は男で、年齢的にもすっかりおじさんということもあってか、親指姫に感情移入することもなく、どちらかと言うと、モグラやツバメがかわいそうだな、という心情が強かった。

確かに、モグラはちょっと性格が悪く、親指姫が嫌うのも当然かもしれない。でも、自分が暗い場所にしか住めなかったら、遠くの明るい世界が嫌いになったり、性格が歪んでしまうのも仕方がない。また、自分と一緒にいることで、暗い世界に閉じ込めてしまうことになり、相手がそのことをひどく悲しみ、遠くの明るい世界を見せてくれるツバメとともに行ってしまうとなったら、(本人は多くを知らないとは言え)モグラの身になると、なんとも切ない気持ちにもなる。

それから、ツバメにしたってかわいそうだ。むしろ、ツバメが一番かわいそうだ。

親指姫は、ツバメの世話をしているうちに、ツバメのことが好きになっていたはずで、最初は断ったものの、次の誘いは受け、一緒に遠くの世界に行ったのに、その先で出会った王子とすぐに結ばれるというのは、ツバメとしても、なかなか辛いものがあったのではないかと思う。

実際、ツバメは祝福のために精一杯の歌を歌ったものの、親指姫がとても好きですごく悲しかった、という風にも書いてある。それはそうだよなと思う。

そして、季節の関係で、この土地を離れたツバメが、巣を作った家のおじさんに歌うことによって、このお話を聞かせた、という形で『親指姫』は終わる。

ツバメは、切ない思いできっとこの話をしたのだろうし、この家のおじさんというのが、「話を上手に語るおじさん」という説明があったので、これはアンデルセン自身のことを指しているのかもしれない。

もしかしたら、この話は、アンデルセンが、家の窓の外で鳴いているツバメの鳴き声を聞きながら想像した物語だったのだろうか。

特に教訓めいたこともないような童話に思えるが、試しに、『親指姫』の教訓に関する声を調べてみると、「自分が困っているときでも、ちゃんとツバメに親切にしたことで、最後は幸せになれた」といった話として解釈している人もいた。

また、親指姫のことが嫌い、という声もちらほらと見られた。それは、親指姫がずっと泣いてばかりで、でもみんなが美しいからと助けてくれ、最後は王子様との結婚が幸せ、という流れや結末への苛立ちのようにも思う。

自分が小さい女の子だったら、素直に親指姫に感情移入ができたかもしれない。一方で、確かに、大人になったら、これまで出会ってきた誰かと重ね合わせ、結局美しさによって周りを振り回していく、という姿勢に対するイライラが芽生えたかもしれないな、とも思う。

なんにせよ、僕としては、ついモグラやツバメがかわいそうだなという方向に気持ちが持っていかれた。

ただ、親指姫も、別に性格が悪いというわけでもないので、ハッピーエンドということで祝福は祝福ながら、大人になってから読むと、読後感としては、何とも言えない切ない心境にはなる。