このサイトでは、アフィリエイト広告を利用しています。また、感想に関しては、一部ネタバレを含んでいる場合があります。

家電なしの暮らしを綴った『寂しい生活』の感想

何のきっかけで知ったのか忘れてしまったが、そのタイトルとシンプルでゆるいイラストの組み合わせに惹かれて、最近、『寂しい生活』という本を読んだ。出版自体は、2017年と、少し前になる。

稲垣えみ子『寂しい生活』

作者は、稲垣えみ子さんというトレードマークのアフロが印象に残る元記者の女性で、表紙や作中の可愛いイラストは、祖父江ヒロコさんというイラストレーターが担当している。

本の内容は、ざっくりと言えば断捨離の本で、東日本大震災の原発事故の際に、節電の要請があったことをきっかけとし、一体どれぐらい電気代を節約できるかということから、そもそも、どれくらい電化製品なしでも暮らしていけるか、という「冒険」に繋がり、その日々の体験談をエッセイとしてまとめたものだ。

稲垣えみ子さんが実践している、エアコンなし、冷蔵庫なし、洗濯機も掃除機もなし、という家電なしの生活は、究極の電気代節約術でもある。ただ、いきなり家電をほぼゼロにするような大胆な行動はできないので徐々に減らしていくことになる。当初稲垣さんが自宅で持っていた電化製品は、以下の通りである。

テレビ、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、フードプロセッサー、ドライヤー、エアコン、アイロン、電灯、ミニコンポ、こたつ、ホットカーペット、電気毛布。

一人暮らしの女性としては、普通の数ではないかと思う。この頃の電気代は、季節によってばらつくものの、ほぼ2000円台だったと言う。それが、やがては、電灯とラジオとパソコンと携帯以外は家電をなくす、という状態まで至り、電気代も200円以下になる。

僕も割と部屋に電化製品含めて、物は少ないほうだとは思う。電気代も夏や冬でも、それほどはかからない。使用中の空気が苦手ということもあり、エアコンなし(正確には使わない)という生活は、もう何年も続けている。夏は暑いし、冬は寒い(これは仕方がない)ものの、毛布や湯たんぽ、扇風機など、それ以外の方法で工夫しながら徐々に慣れてはきた。家電製品のなかには、ほとんど使っていないが、一応は持ってはいる、というものもある。冷蔵庫や洗濯機に関しては、さすがにある。物を減らしたいと思っても、この辺までは、なかなか進めない。とは言っても、江戸時代の人々は、こういった電化製品は何もなく生活していた。稲垣えみ子さんも、江戸時代の暮らしを参考にしながら、家電なしの生活を模索していった。家電だけではなく物も減らし、自ずと食事も簡素な和食が中心になる。紹介される暮らし全般の古くからの知恵も勉強になる。

この本は、そもそも単純に文章がうまく、読みやすい。ぐっと思索的になるときもあれば、笑わせる流れのときもあり、随所に入るイラストも絶妙で、柔らかく、肩肘張らずに読めるエッセイになっている。

タイトルの『寂しい生活』という言葉も、いいタイトルだ。寂しいということを誤魔化すために色んなものが増えていく。でも、増やしても、増やしても、その寂しさは消えていかない。逆に、減らしていくことで、一見すると「寂しい生活」となっていくものの、その分、生きる力や結びつき、自然との繋がりのなかで生きていくことなど、「寂しくない世界」に繋がっていく。そういった意味合いを込めて、このタイトルがつけられたのだと思う。

全部ゼロにしろ、野生に帰れ、といったことではなく、これらは本当に必要なのだろうか、と思いながら、だんだん減らしていくと、案外、なしでも平気なもので溢れている。そして、減らすほどに、心が楽になっていく。大切にしたいものが見えていく。そういった過程そのものを描いている。すぐに全部を真似できなくても、具体的な代わりの方法も参考になるし、一つ一つの考え方も含めて、よい部分、納得できる部分、実践できる部分は受け取っていく、そんな気軽な感覚で読める本だと思う。

ちなみに、稲垣えみ子さんの現在の住まいや部屋の雰囲気はどんな感じなのだろうと調べてみたら、雑誌の『& Premium』に載っていた。素敵な部屋だった。

『& Premium』 instagram

部屋にはちゃぶ台が一つ。観葉植物に、年季の入った本棚。日当たりのいいベランダでは、野菜か何かを干している。窓辺には干し柿だろうか。ベッドは、この写真を撮っているカメラマンの辺りにあるようだ。シンプルで、物は少ない。だからと言って殺風景ではなく、自分にとって大切なものだけが置いてある、といった優しい雰囲気が流れている。こういう空間に憧れる。