ザ・マミィ酒井と清水パソコン
個人的にネタが好きなお笑いコンビに、ザ・マミィという人力舎所属の芸人がいる。
ザ・マミィのネタは、題材が絶妙で、人間味も詰まっていながら、毒もなくちゃんと腹から笑えるのが魅力だ。
好きなネタの一つは、「金持ちの息子」。金持ちのお父さんが、なんでも子供の夢を先取りして叶えてしまう、何一つ不自由はないものの、自由ではない、というちょっと考えさせられるテーマになっている。
ただ、考えさせられる、と言っても、特にネタを見ながら、「考えさせられる」ということに意識を持っていかれることもなく、純粋に面白い。
メッセージ性が強すぎると、あまりリラックスできず、左脳的になって疲れることもあるけれど、このネタはそんなことがない。
ザ・マミィ「金持ちの親子」【公式】
それから、2021年のキングオブコントの決勝で披露された、「この気持ちはなんだろう」というネタも、絶妙なポイントを突いてくるネタだった。
ネタ作りは、主にはツッコミの林田さんが担当している(と言っても、基本は話し合いながら決めているようだ)。
線が細くメガネ姿のいかにも賢い雰囲気が漂っている風貌で、父親が医者だったこともあり、自然と医者になることを求められるような環境ではあったようだ。ただ、本人に医師を志す気持ちはなく、筑波大学在学中に、ローカルラジオ局のアルバイトを経て、お笑いの道を目指すことになる。
一方、いわゆる“クズ芸人”として人気で、その独特のキャラクターがネタでも活かされているのが、ボケの酒井さん。酒井さんのキャラクターありきで、ネタも作られる。
林田:ネタ作りの方法はトリオのときとそんなに変わらないです。2人で話し合いながら作って、僕が仕上げを書く。設定を持ち寄ったりして、「これはどう?」「いいね」となったら、そこから話を進めていく。キャラクターは酒井が持っているものなので、それはトリオ時代から変わらない。酒井のキャラクター中心で考えているので。
酒井:2人で盛り上がって内容ができてきたというところで、私が何かちょうどいいキャラを探して。僕の持っている中で「もうちょっと爆発させてみよう」みたいなもので、むちゃくちゃやって新しく生まれる。
林田:だからネタの設定を考えている時点で、酒井がやるという前提で考えるクセがついてます。僕が考えている時点で脳内にこの人の声が聞こえてくる(笑)。
ザ・マミィのコントのよさは、林田さんのネタの絶妙な視点と、同時に、この酒井さんの演技力も凄い。
酒井さんが出来そうなキャラを演じさせたら、その魅力が存分に発揮される。「この気持ちはなんだろう」も、演技力の要素がとても大きかった。
ザ・マミィ「この気もちはなんだろう」【キングオブコント2021決勝】【公式】
と、そんなことをつらつらと書いてみたのだけれど、最近、ちょっと心を打たれたのは、この酒井さんと、「あそび」というコンビの清水パソコンさんの関係性だ。
清水パソコンさんと、酒井さんは、年齢差はあれど、人力舎の同期芸人。初めて名前を聞いたのは、チョコプラのYouTubeのコーナー「マネーのクズ」で、酒井さんが、清水パソコンさんをプレゼンしたのがきっかけだった。
その場で、酒井さんは、彼のお笑いの才能を絶賛していた(結果としてハードルも挙がったのか、呼ばれるのが怖いと言って出演を断っているようだ)。
また、それからしばらくして、鬼越トマホークのYouTubeチャンネルでも、酒井さんが、自分よりもクズだと思う芸人ランキングで、この清水パソコンという芸人の名前を挙げていた。
【ザ・マミィ酒井】クズ芸人酒井が選ぶ自分よりクズだと思う芸人ランキング【鬼越トマホーク】
よほど酒井さんにとって思い入れが強い芸人なんだろうなと思って話を聞いていたら、どうやら、ずいぶんと人間味のある背景があった。
清水パソコンさんに、色々と遊びを教えたのは、酒井さんだった。そして、その遊びにのめりこみ、借金を含め、泥沼に沈んでいく清水パソコンさん。それも、ちょっと笑えない側面もあり、芸人として売れることも諦めつつある。
一方で、ザ・マミィは、一気に売れっ子芸人の仲間入りを果たし、自分が遊びを教えたこともあり、清水パソコンさんに対して罪悪感もあるそうで、なんとしても救いたい、という想いが強いようだ。
酒井さんによると、清水さんは、借金の返済のためにバイト漬けの毎日を送っており、お笑いが出来ていない状態だそう。
また、清水さんが借金まみれになったのも、自分に原因があると言う酒井さん。長崎から東京に出てきた清水さんにいろいろな遊びを覚えさせてしまい、その結果、清水さんが遊びにハマり250万円ほどの借金を作ってしまったと言います。
出典 : ザ・マミィ酒井に感化された「あそびの清水パソコン」借金まみれに…50万円巡りチョコプラ長田とじろうに猛アピール
お互い、売れない同期の芸人で、一緒に遊び、片方がずぶずぶにはまり込んでいってしまい、片方が、売れっ子になる。
酒井さんからしたら、自分がそうなっていたかもしれない、もう一人の自分のような感覚があるからこそ、なんとしても助けたいという気持ちになるのかなと思う。
でも、清水パソコンさんのほうも、だいぶ腐りも強くなっているらしく、精神的にも危ういときもあり、なかなか難しいようだ。
鬼越トマホークのチャンネルでも、酒井さんが話す清水パソコンさんのエピソードは、とても公にできないのか、ピー音ばかりだった。
そう考えると、クズ芸人、クズ芸人と言っても、やっぱり、自分のなかで負けん気や向上心や自立したものがあって、ある程度自分のクズの部分を客観視し、これくらいなら笑える、という境界線を認識しながら、笑いとして表現する、という、だいぶ技術のいることをしているんだなと思う。
時代もあってなおさら、本当のクズなら“クズ芸人”はできない。
いずれにせよ、酒井さんが清水パソコンさんについて話しているときの、心配そうにしている表情が、なんとも印象的だった。